20180711, Wed
JICPA東京第二ブロック
講師 弁護士 菅谷貴子氏
つい最近、平成30年7月6日に可決、成立した改正民法について、相続に絞った研修に参加してきました。
なお施行は来年の同時期くらいまでなのでまだまだです。
改正論点はいくつもありましたが、今回の相続関連部分の改正のポイントは配偶者の生活保障を手厚くした点ということで居住権の部分と、
あとは私が「ははぁ」と思った遺言制度の2点+αに絞ってレポートします。
長いんで…ざっと見る場合は「★要約」部分だけでわかります。
【私が絞った3つ】
1.被相続人の配偶者の居住権を保護するための方策
2.遺言制度に関する見直し
3.+α その他
【Report】
1.被相続人の配偶者の居住権を保護するための方策 ー 配偶者短期居住権と長期居住権
(0)論点に入る前に
法律って大抵古いとは思ってましたが、民法の大元は明治31年に制定された明治民法だそうで。研修の初めに先生が民法改正の経緯を説明してくれたんですが、とかく昔に作られたものだからその時代時代で現実と合ってない部分が多々あり、徐々に改正されていったと。今違憲裁判が一番多いのも民法だそうです。
相続だけにFocusすると、
昭和17年、戦争の影響で妻妊娠中に夫死亡という案件が多数発生。胎児に世襲相続が認められる
とか、
昭和22年、家督相続制度の廃止、配偶者の相続権の確立
・・・
平成11年、聴覚・言語機能障がい者が公正証書遺言を作成する際の口頭主義の見直し
・・・
平成25年、嫡出子の相続分を2分の1とする規定の削除(非嫡出子であっても相続分は嫡出子と同等とするという意味)
今回の平成30年改正はこの平成25年改正によって子供の相続権が強化された一方、配偶者の保護もすべきであるという流れを大きく汲んでいるらしい。
配偶者亡き後も一緒に住んでた家は引き続き住めるのが遺族の生活保障の観点からも大事でしょ、ということみたいです。
(1)配偶者短期居住権
ア)配偶者短期居住権とは
遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、居住建物の所有権を相続により取得した者に対し、居住建物について無償で使用する権利
イ)要件
配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していたこと
★要約
亡くなった配偶者が住んでいた家も相続財産なので分割の対象ですが、分割協議が進まず誰のものでもない家になってしまっている期間or相続によって他の人のものになってしまった場合でも、一緒に住んでいた配偶者(生存している方)は最低6か月はその家に引き続き住める。この間、他の相続人に対して家賃を払う必要はない。
(2)配偶者(長期)居住権
ア)配偶者居住権とは
配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利
イ)要件
配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始時に居住していた場合において、次のいずれかに該当するとき
・遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
・配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
・被相続人と配偶者との間に、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があるとき
★要約
配偶者が亡くなったあと、自宅の所有権は相続によって他の人に渡したとしても、配偶者と同じ家に一緒に住んでいた配偶者(生存している方)は、相続の際「配偶者居住権」を取得できれば、引き続きその家に無償で住むことができる。
上述した(1)短期との違いは、相続で「配偶者居住権」を得るということ。通常は自宅の所有権を相続して引き続き住みますが、所有権は他の人(子供とか)に相続させ、自分はその家に住み続ける権利だけを得る方法。この配偶者居住権は相続時に評価され、相続資産として扱われます(居住権評価方法は国税庁から施行時に指示が出るはずとのこと)。
自宅所有権を相続させるのが一番シンプルですけど、所有権を相続する場合と比較して相続評価額を抑えて税負担を軽減することができるというメリットがあるらしいですが、
そもそも配偶者控除額はかなり大きいので、一般的な家庭ではこの制度あんまり影響ないと思いますけどどうなんでしょうか…。
2.遺言制度に関する見直し
要約だけ書きます!
(1)自筆証書遺言の形式緩和
★要約
財産目録はPCワード打ち出しでもOK。でもその場合でも全ページに自署押印必須。
今まで財産目録も含めて全部自筆しないといけなかった(知らなかったし驚きです)&修正したくても修正方法が厳格すぎて法律で定めるところのちゃんとした修正はできてる人なんて殆どいなかったけど、これで少しは自筆遺言も書きやすい。
(2)自筆証書遺言にかかる遺言書の保管制度の創設
★要約
自筆遺言を法務局で保管してもらえる(公正証書遺言のように公的機関に預けられるようになる)。相続開始すれば、相続人は法務局で遺言書があるかどうか確認できるようになる。
法務局での保管料金は未定だが、数千円程度ではないかとのこと。法務局で保管されている遺言については家庭裁判所での検認を要しない。
講師の先生曰く、検認を要しなくても遺言の有効性は別問題のため自筆遺言は遺言書としては突っ込みどころが多く争いの種になる点は変わらない(争点を減らせはする)。公正証書を作った方がやっぱり確実で、公証人は出張もしてくれるので公証役場に行けないことを理由に公正証書遺言を諦めない方がいい!とのことでした。
3.その他
改正されて良かったなぁと思ったのは相続人以外の親族による寄与分の請求ができるようになったことでした。
今までは相続人にしか主張ができなかった寄与分(法定相続割合を超えて主張する貢献度反映分の財産額)、被相続人の親族も可能になりました。よくあるのは介護実際やってるのは相続人じゃなくて相続人の配偶者で、その人が寄与分主張したくとも主張できないという。
実家で父方の祖母の介護やってたのは母だったけど、遺言なければ相続は血縁者にしか配分されないんだよなーと思った昔の記憶が蘇りました(別に母は何も請求してませんが)。
…長いですね。
勉強になりました。